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ゆっくり爆発していってね 後編 22KB 観察 駆除 番い 群れ 自然界 現代 5作目です、前編からお読みくださいませ 群れのゆっくりたちが再び広場に集結したが、それがかなり異常な状態であると誰もが理解できた。 通常は成体ゆっくりだけが参加するこの場に、子ゆっくりどころか巣から出る事が全くない赤ゆっくりまで 総勢200匹近い群れの全てのゆっくりが長を今か今かと待ち侘びていた。 捕食種が活動を始める時間が近い事や、無理して外に出させた赤ゆっくりが愚図り始めた事でゆっくりの中から文句の声が上がり始める。 「みんなしずかに、せいしゅくにしてね!!」 長ぱちゅりーが指定席である、割った竹の上に乗り上げると、眉を吊り上げたゆっくりたちが一斉に長を罵り始めた。 「おさっ、もうれみりゃたちがすがたをあらわすじかんだよ!ゆっくりできないよ!!」 「れいむのあかちゃんがおなかをすかせているよ!!ゆっくりしないですにかえしてね!!」 「むきゅー、いったいなにがはじまるの?なにかあったの?」 様々な反応を示すゆっくりたちに話が進めないでいると、娘ぱちゅりーが何人かの友人を引き連れて長ぱちゅりーの前に立った。 「「「「「ぜんいんしずかにしてね!!!」」」」」 張り合わせた声が広場に響き渡る、しんっと一瞬だけ静まり返ると、その期を逃さず長ぱちゅりーは言葉を発した。 「みんなごめんなさいねっ、いちぶのゆっくりはしっているとおもうけれど、きょうあまあまさんがすのちかくでおちていたわ もしかしたらそれにどくがはいっていたかもしれないの!!いまからみんなをしょうどくをするから、 あまあまさんをたべたゆっくりは、むこうのひろばにあつまってほしいの」 消毒というのは勿論嘘で言い包めるための方便だった。 毒という単語に怯えた一部のゆっくりは混乱するが、長ぱちゅりーが消毒すれば大丈夫だからと落ち着かせ、ゆっくりたちは一斉に列を作り始めた。 長ぱちゅりーは覚悟していた。どれほどのゆっくりが爆弾を抱えているのかと、 なるべく少なくあって欲しいと願いながら細めた眼をゆっくりと開くと、 そこには群れのほぼ半数、100匹近いゆっくりが列を成していた。 「……むきゅう……」 パッと見ると稼ぎ手であるまりさ種が多く、中には子ゆっくりや、極僅かであるが赤ゆっくりまで存在した。 親が取ってきた物を分け与えられたのだろうか、どちらにしてもかなりの損害であるのは明瞭だった。 娘ぱちゅりーとは既に話し合いを終えており、山の中腹にある湖畔で消毒の名目として身体を洗う、ということで決定していた。 長ぱちゅりーは、生涯の別れとなるであろうと覚悟して娘ぱちゅりーを見た。 そこには気丈に振る舞い、爆弾持ちのゆっくりを先導する彼女の姿があった。 事は順調に進むと思えたが、その時――。 一部から甲高い悲鳴があがった、見ると混乱を引き起こさせないためにみょんが持ってきたブルーシートで覆ってあった ありすとまりさの無残な死体が大衆の眼下に曝け出されていた。 暇を持余した子ゆっくりたちが誤ってブルーシートを外してしまったのだ。 「ゆゆ!!あ、あれはありすだよ!ど、どうしてあんなふうになってるの!?」 「わ、わからないよー、わからないよー!」 「むきゅー……な、なんてしにかたなの!?ひどすぎるわ!!」 混乱し始めるゆっくりたち、長ぱちゅりーが杞憂した最悪の展開が引き起こされてしまった。 直ぐに一部からあまあまを食べたせいだ、と声があがり列が崩れ始める。 こうなればもう終わりだ、暴走したゆっくりたちを納得させる事は不可能になってしまう。 「ぜんいんだまってね!!!!!」 混乱を収拾したのは、娘ぱちゅりーだった。 ぱちゅりー種とは思えない程の大きな声で一喝すると、母に代わり近くの岩場に乗り上げゆっくりたちを見下ろした。 「あまあまさんをたべたゆっくりはれいがいなくぜんいんばくはつしてしまうわ!!! ぱちゅりーのありすは……まりさのばくはつにまきこまれてしんだのよ!!」 ごくりと息を呑む一同、夜風に靡かれたありすとまりさの死骸は何も語らない。 「ゆぐうぅう!!あまあまざんをだべだがら、でいぶじんじゃうの!?いやだよぉ……いやだよぉお!!」 「いやなのぜぇ!!ばでぃざはじにだぐないのぜぇ!!!」 「おきゃーじゃあぁん、まだありずじにだぐないよぉおお!!」 自身に突然と降りかかった災いに、皆納得できない様子で騒ぎ立てる。 その不幸の渦中でも娘ぱちゅりーは叫び続けた。 「ぱちゅりーもあまあまさんをたべたわ!みんなもかぞくをまきぞいにしたくなかった…… ぱちゅりーにしたがって、ゆっくりぷれいすからはなれるのよ!!!それとも、たいせつなゆっくりたちをまきぞいにしたいの!?」 涙する者、嗚咽を漏らす者、悲しみにひれ伏す者、群れを襲った悲劇はあまりにも大き過ぎた。 だが、娘ぱちゅりーが功を奏したお陰で皆が皆現実を理解することだけはできた。 長ぱちゅりーは時間がないことを承知の上で、声を荒げ宣言する。 「いまから5ふんだけじかんをあたえるわ!!みんな、かぞくとのわかれをすますのよ!!」 5分という生々しいタイムリミットが、悲しみに身を揺らしていたゆっくりたちを立ち上がらせた。 まりさは新妻のありすと産まれたばかりの赤ゆっくりたちに囲まれて今生の別れを惜しんだ。 「まりざぁああ……どうじで……どうじでぇごんなごどにぃい……」 「ありす、なくのはやめるんだよ!まりさのおちびちゃんたちをたのむのぜ!」 現実を真摯に受け止め落ち着き払ったまりさは家族の前で決して泣く事はなかった、 変わりに涙を流したありすと赤まりさ、赤ありすと一家全員で最後のすーりすーりをし始める。 「おちょうちぁぁん……もっちょゆっきゅちしていってよぉ!!まりちゃともっちょあちょんでほちかっちゃよぉおお!!」 「ありしゅもはなれちゃくないよぉおお!!おちょうしゃん!!」 「ごめんね、おちびちゃんたち……まりさはばちがあたったんだよ……しかたがないんだよ」 まりさには負い目があった、それは自分だけがあのあまあまさんを食べて満足してしまった事で、 この理不尽な仕打ちも自身の身勝手さが産み出してしまった天罰なのだろうと思えて仕方がなかったのだ。 結果としてまりさが食べてしまった事で妻や子供たちは死なずに済んだが、ゆっくりらしからぬ達観した境地にあるまりさは せめて愛すべき家族の前では恰好良い姿のままでいようと、精一杯の笑顔を振り撒いたのだった。 ちぇんは家族との別れを済ます事も叶わず、鋭い表情を浮かべる成体ゆっくりに囲まれて身を縮ませていた。 「おまえのせいなんだよ!!れいむのおちびちゃんがこんなめにあったのはおまえのせいなんだよ!!」 「ゆっくりしないでしんでね!!せきにんをとってね!!ぐずぐずするんじゃないよ!!」 ちぇんとありすは、怒り狂った友人の親たちに取り囲まれている。 あまあまさんを自分たちだけで独占せず群れの仲間たちに分け与えたのが、最悪の形で裏目に出てしまった。 2匹は親との最期の別れも出来ず、友人の親たちが元凶はこの2匹であると決め付けて有りっ丈の罵倒を投げつけている。 友人の子れいむや子まりさも親の脇で泣きながら険しい表情を作って、ちぇんとありすを恨めしそうに睨み付ける。 「ゆあぁあああん!!おがぁあざんっ!!まりしゃはじにだぐないよ!!ぢぇんどありずのせいだよ!!!」 「でいぶだっでじにだぐないよぉおお!!しねっ!!げすのぢぇんとありずはゆっくりしないでじねぇええっ!!」 ちぇんとありすは身を寄せ合い、貴方たちだって満足そうに食べていたじゃないか、と出掛かった言葉の全てを飲み込んで 必死に必死に耐えている。長ぱちゅりーが決めたタイムリミットはもう近い、どうしてこんな事にと隠し切れない涙を流して 俯いていると2匹の親である親ちぇんと親ありすが駆け寄ってきて取り囲まれたゆっくりの壁の隙間から名を呼んだ。 「ちぇんのおちびちゃん!!おかーさんだよー!!わかってねー!!」 「ありすちゃん!?おかーさんよ!!そこにいるの!?」 円陣を組むように取り囲まれたちぇんとありす、その陣の中心に割って入ろうとした親2匹は強い体当たりを受けてよろけた。 見上げるとぎりぎりと歯軋りを立てた友人の親ゆっくりたちが凄まじい形相で立ち塞がっていた。 「どうしてそんなことするの?わからないよー……」 「お、おねがいですっ!ありすちゃんにあわせてくださいっ!!あとでなんどでもあやまりますから!!もうさいごになってしまうのよ!!」 親ちぇんと親ありすは、自分たちの娘の所為で被害が広がってしまった事実を受け止め、親ゆっくりたちの心情を察し罪悪感を感じていた。 だがそれでも、この最期の瞬間だけは母親として娘の支えになってやりたいと切実に願っていた。 しかし納得のいかない友人の親たちは、それぞれ眼を合わせると2匹に無情とも言える台詞を突っぱねた。 「だめだよ!あわせるわけにはいかないよ!!これはばつだよ!!」 「そうだよ!!だれのせいでこうなったのか、ゆっくりりかいするべきなんだよ!!」 親たちの煮えたぎる怒りは最期の時間を与えることさえ許さなかった。 口を歪め眉を吊り上げると大きく身体を膨らませてちぇんとありすを跨った肉壁をより一層強化する。 絶対に進ませない、絶対に触れ合わせない、負の感情が異様な空気を作り出す。 「おねがい……おねがいですっ!!……ありすちゃんっ!!きこえるっ!?おかーさんはありすちゃんのことが――」 「うるさいよっ!!だまってよっ!!つたえさせないよっ!!ゆっくりりかいしたらはなれるんだよ!!」 諦めた親ありすがせめて自分の思いの丈を娘に知っていて欲しいと声を張り上げるも、 その僅かな願いさせも親れいむの轟音に掻き消された、親ちぇんと親ありすはボロボロと砂糖水の涙を流して身体を震わせる。 そして各々の想いを引き離すかのように、長ぱちゅりーの号令が掛かった。 「ありずちゃんっ!!ありずちゃああん!!!!ありずちゃああああんん!!!!」 「ちぇええんっのおぢびじゃぁあああん!!!ちぇええええええええんっっ!!!!ちぇぇえぇえぇええん!!!」 1匹の親まりさに弾き飛ばされるように、娘ぱちゅりーが先導する広場へ向かわされるちぇんとありす、 背後には大好きな母親の悲痛な叫びが聞こえてくる、返事をしようにも今も睨み付けている親まりさがそれを許さない。 友人の子れいむや子まりさが2匹にぶつかってその怒りの矛先を向け、後ろ髪を引かれる思いでちぇんとありすは列に戻っていく。 しんぐるまざーのれいむはこれから文字通りの彼岸へと旅立っていく、爆弾を抱えたゆっくりたちが山を登り始める後ろ姿を見つめていた。 最初に長ぱちゅりーが消毒をすると言った時、捻くれ者のれいむは、きっと消毒というのは嘘で残ったあまあまを 群れのみんなで食べる気なんだと思い込み列には並んでいなかったので、周囲に爆弾を抱えたゆっくりではないと見られていた。 内心、怯えて小刻みに身体をぶるぶると震わせているが、れいむは持ち前の自己中心的な思考がそれを緩和させていた。 (れいむはしんぐるまざーでかわいそうなんだよ!れいむだけはきっとだいじょうぶなんだよ!!) 自分を納得させるようにれいむは心の内で何度も何度も呪文のように詠唱する。 その近くで歩く死者の列を蚊帳の外といった感じにボーっと眺めているれいむの赤まりさが母の異変に気付いて尋ねた。 「おきゃーしゃん、どうしちゃの?ふるえちぇるよ!」 「な、なんでもないんだよ。だいじょうぶだよ!」 死んだような顔をして目の前を通り過ぎていく爆弾を抱えたゆっくりたちと、その家族の別れを惜しむ悲鳴が交差するその場で れいむは根拠のない自信を盾にどうにか立っていた。 直ぐ傍でご近所だった、長ぱちゅりーにれいむだけ優遇されていて不公平だと訴えたゆっくりまりさが通り過ぎる。 まりさはれいむに気付くと一度だけ冷え切った笑みを垣間見せ、列に紛れ込んで消えていった。 (れいむだけはへいきなんだよ!!あんなゆっくりたちとはちがうんだよ!!) れいむの震えは決して止まらない、その時が近付くまで――。 細長い行列を作り、100匹近いゆっくりの列が山の中腹を目指して歩き出す。 背後から泣き叫ぶ家族の声に何度も振り返りながら爆弾を腹の中に抱えたゆっくりたちは前を進む、 突然、前方の集団の方からがパンッと乾いた音が響き、遅れて悲鳴があがった、ついに始まってしまったのだ。 長ぱちゅりーがせめてもの情けとして最期の時間を割いた事が、不幸にも最愛の家族たちに間近で爆散していく凄惨な姿を見せ付ける結果になってしまった。 「ちぇんのおちびちゃんたち、みんなでなかよくくらすんだよー」 ちぇんの母親である親ちぇんは番のゆっくりらんと一度だけ視線を重ね頷くと、振り向いて走り始めた。 背後で残した子供たちの泣き声が聴こえる、しかし親ちぇんは一度も振り返らず死者の列を目指して突き進む。 「おきゃぁあしゃん、いかないでぇええ!!わがらないよぉおおお!!!」 親ちぇんは番のゆっくりらんに残された子ゆっくりの全てを託し、自身は生きて帰ってくる事はないと知りながら子ちぇんを見守り 最期まで側で寄り添っていてあげようと決め込んだのだ。 途中、同じように覚悟を決めた親ありすと合流すると、お互いに顔を見合わせて困ったような顔で小さく笑うと 死者の列に紛れて姿が見えない我が子を呼び続けた。 既に何匹かの爆発が始まっている、荒波の如く悲痛な叫びが交錯する列に2匹は潜り込んだ。 「ちぇえぇええん!!おかーさんがここにいるんだよー!!わかってねー!!」 「ありすちゃんっー!!おかーさんもいっしょにいくわ!!!どこにいるのーっ!?」 親の子を思う願いが天に通じたのか、奇跡的にも僅か前を行く娘の姿を発見し2匹は大声でそちらを呼んだ。 聞きなれた母親の声が伝わり振り返ったちぇんとありすは、その姿を見るなり言い表せないほど嬉しそうに涙を流して母の胸へと飛び込んだ。 「おがぁああざんっ!!わかるよぉおお!!わがるょよぉおお!!!」 「おかーさぁあん、ありす、どっでもあいだがっだ、あいだがっだよぉおおお!!」 自分を想い、死ぬ事すら承知の上で駆け付けてくれた母親の温かさにちぇんとありすは まるで赤ゆっくりに退化したようにわんわんと泣いて身を寄せ合い甘えた。 遠くの方でその様子を羨ましそうに見つめる子れいむと子まりさがいる、2匹の親はここに来てくれはしない。 れいむとまりさは目の前にある家族愛と自身を比較して、孤独に押し潰されそうになっている。 そんな2匹を親ちぇんと親ありすは微笑みこっちに来るように促した。 「おばざん……ま、まりざも……まりざもいっしょにいていいのぜ?……」 「ちぇんとありずにひどいごどじだ、でいぶも……いっしょでい”い”の?」 せめてもの罪滅ぼしのつもりだったのか、親ちぇんと親ありすは慈愛溢れる笑みを浮かべて頷いた。 「「「「おばざああんっ!!」」」」 「だいじょうぶよ、まりさちゃんも、みんなでいっしょにいこうね……みんなでいっしょならこわくないわ!」 「れいむもちぇんもいっしょだよー、みんなみんないっしょだよー!」 深い愛情に包まれた家族が爆発に巻き込まれたのは――ほんの一瞬だった。 ちぇんが爆ぜ、ありすも遅れて爆ぜると、そこには身体の上部を失った屍と無数の穴を開け息絶えた死骸が、物言わぬ小麦粉の塊と化した。 その家族たちが派手にば爆散した様を後ろで見ていた新妻のありすの番であるまりさは、 この断末魔が広がる悪夢の光景とも言える場所でついに押さえ付けていた精神の楔が弾け飛んでしまった。 まりさは何かに取り付かれるようにゆっくりと列を離れると、遠くからこちらの様子を見守っている残されたゆっくりたちに近付いていく。 それに気付いたれいむとみょんが、急いでまりさの足を止めさせ身動きが取れないように伸し掛かった。 「まりさっ!!そっちにいっちゃだめなんだよ!!ゆっくりしないでれつにもどるんだよ!!」 「かんけいないゆっくりがまきこまれてしまうみょん!!いっちゃだめみょん!!」 「はなぜぇえええ!!はなぜぇえええ!!!いやだぁあああっ!!まだぁああじにだぐなぃいいっ!!!」 近くで呆気なく死んでいく仲間たちの惨状に、もうまりさは耐え切れなくなっていた。 あれほど気丈に振舞っていても、つまるところがこの阿鼻叫喚の地獄絵図ではまりさが壊れてしまうのは無理もない。 かくいうまりさの身体を拘束しているれいむやみょんも既に限界は近い、こうして役割を演じる事でどうにか自我を保っている状態に過ぎない。 「いぃやぁだぁぁああ!!まりざはまだやりだいごどだっであるんだぉおおお!!たすげでぇええよぉおおお!!ありぃいいずゅうう!! おぢびじゃぁあんんっ!!いやじゃああっ!!じにだぐないっ!!まだまりざはじにじゃぁぐなぁぁぁああいよぉおおお!!!」 まるでポップコーンが作られていく工程を見ているようにパンッパンッと鈍い音が、あまあまを食べていない残されたゆっくりたちに伝わる。 一つ一つの音が響く度に最愛の者が消えていく事実に涙し、せめてもの願いを込めて名を呼んでいる。 既に見えなくなった娘の事を思い、長ぱちゅりーは群れの仲間たちが消えていく様子をジッと見つめ脳裏に焼き付けていた。 ふと長ぱちゅりーは列を脱線したゆっくりが視界に入るとそれを直視した、列を外れた3匹のゆっくりがこちらにじわじわと近付いているではないかと。 「むきゅー、あれは……まりさ……なの?ど、どうしてっ……!」 身体を封じ込めようと力で圧力を掛ける、れいむとみょんを引きずって、ゆっくりとまりさが這い寄ってくる。 長ぱちゅりーは、ともかく残った者の安全を優先するために急いで巣に避難するように訴えるも、 多くの仲間たちは気が動転しているため耳には伝わらない、雲に掛かった月が顔を覗かせ月明かりを地上が照らすと まりさが生にしがみ付こうと必死の形相でこちらに向かってくるのがよく分かった。 「まりざぁああ!!まりざぁああああっ!!!!」 「ゆわぁあああんっ!!おちょうしゃぁああんっ!!!」 一組の親子が、こちらに迫ってくるゆっくりが自分の家族の者であると気付き身を乗り出す。 ありすとその子供たちだ。 「いけないわっ!!だれか!!!だれもいいからありすたちをとめてぇええ!!!」 押さえ込んむ2匹を背負って徐々に距離を詰めていくまりさに、ありすたち一家が駆け寄ろうと走り出す。 それがどういう結果になるのか容易に想像できた長ぱちゅりーは引き止めるために叫ぶ。 正気を保っていたゆっくりみょんとゆっくりちぇんがありす一家の傍に居た事が幸いした。 まずちぇんが急いでありすたちの前に立ち塞がり、遅れてみょんが背中を押す形でありす一家の動きを封じた。 「だめだよー!!ありすたちもまきこまれちゃうよー!!」 「おねがいはなじでぇえ!!ありずはどうなっでもいいのよ!!まりざがっ!!まりさがぁあっ!!」 新妻のありすが、みょんの身体から逃れようと必死にもがく、 じりじりと這い蹲って距離を詰めるまりさに異変が起こったのは直後のこと。 「ゆがっ!?……ま、まりざ、じぬの!?い”やだぁああああ!!ごんなごどでじにだうあんあ”っ――」 一瞬、まりさの呂律が回らなくなったと思えば全身がみるみるうちに膨らんでいき、 寒天で作られた目玉が内圧に押されて今にも飛び出しそうになった。 呆気なく限界点を超えボンッと音を立てて、まりさの餡子は内部から破裂した。 まりさを抑えていたれいむとみょんは散弾を真っ向から喰らい、機能を停止するように息絶えた。 最愛の番の内臓物である固まった餡子の一部が凄まじい速さでありすの頬を掠めていくのを見て、ありすは番のまりさの凄惨な死に際を理解してしまった。 「いやぁああああぁぁああああ!!まぁありぃいさぁあああぁっ!!!」 「おちょうしゃぁああんっ!!」 ありすを押さえ付けていた、みょんとちぇんはそれらの行為が意味を成さなくなったと判断して 泣き崩れ頭を垂れた一家を背に悲しそうな顔をして離れていく。 入れ替わり、しんぐるまざーのれいむが白目を向いて一家の側に近寄ると、亡骸をれいむの大きな揉み上げで指してぶつぶつと何かを呟いた。 どうも様子がおかしいと長ぱちゅりーは恐る恐る近付くと、カッとれいむは見開いて喚き散らした。 「でいぶはがわいぞうなしんぐるまざーなんだよぉおおおぉおおお!!!!!」 平伏して嘆くありすに徐に伸し掛かり、しんぐるまざーのれいむは気が狂ったようにありすに懇願する。 「ありずはでいぶをだすげなぐっちゃいげないんだよぉおお!!でいぶはしんぐるまざーなんだよぉ!!だすげるのはどうぜんだんよぉおおおお!!!」 「なにずるのっ!?はなじでっ!!まりさぁああ、たすげでっ!!まりざぁああああ!!」 「おきゃぁしゃんをはにゃちゅんだじぇ!!」 れいむはありすを逃がさないように巨体な身体を押し付ける、ありすは突然襲い掛かり訳の分からないことを言い始めたれいむに困惑していると、 傍らで泣いていた赤まりさが親ありすを助けるべく小さく転がって、れいむに意味のない体当たりをしている。 「でいぶはばぐはづじだぐないぃいいい!!ありずだずげでぇえええよぉおお!!でいぶはじんぐるまざぁああなんだよぉおおお!!」 自分だけは大丈夫だと自己暗示を掛けるように何度も胸のうちで繰り返していたしんぐるまざーのれいむであったが まじまじと、ゆっくりたちが爆発して死んでいく現実を突きつけられ、彼女もまりさと同様にメンタルの部分を支えきれなくなった。 誰でもいいから助けて欲しい、あんな惨たらしく死んでいくのは絶対に嫌だ、憔悴しきったれいむは たった今家族を亡くし悲しみに溺れたありすに、それが無駄であるかどうかの判断さえつかずに延命を乞う。 長ぱちゅりーはれいむが『爆発』という単語を発したことと、れいむの背中の表面にゴツゴツとした丸い塊が、虫が地を這う様に移動しているのを目撃し、爆弾持ちであることを瞬時に見抜いた。 どうして爆弾持ちがここにいるのか、という疑問の一切を投げ捨て長ぱちゅりーはとにかく叫んだ。 「みんなとおくににげるのよっ!!れいむがばくはつするわ!!!」 導火線に火がついたしんぐるまざーのれいむを見る一同、れいむの異変を察知して蜘蛛の子を散らすように逃げ出すゆっくりたち。 れいむはまりさと同様に内圧で大きく膨れ始める、それでもありすを離すことはなく助けを求めている。 「だずげでよぉおおお!!でいぶをだずげでよぉおおおお!!!」 「おねがいはなじでぇっ!!はなじでよおぉおお!!!」 そして、しんぐるまざーのれいむは爆発した。 長ぱちゅりーは爆死したゆっくりの死体に下半身だけが残っている事を思い出し、 身を伏せる回避法を選択した事が命を繋ぐ結果になった。 降り注がれたれいむの餡子を寸前のところでかわし傷一つなくやり過す、 存えた長ぱちゅりーは皆の無事を願い周囲を見ると、その光景は凄まじいものだった。 「で、でいぶのあんござんが、おなかがらででるよぉおおおお!!あんござんゆっぐりじないでもどっでぇえよぉおおおお!!!」 腹を割られた子れいむが朦朧とする意識の中で、ピコピコと揉み上げを動かして外に溢れ出た餡子を腹の中に収め直そうとしている。 「まっぐらだよぉおお!!、みんなどごいっだのっ!?ありずをひどりにじないでぇえ!!!」 両目を潰されたありすが、頬からカスタードを撒き散らしながら見知ったゆっくりを探して彷徨っている。 「おちびじゃあぁあん!!おねがいだがらゆっぐりじでいっでね!!ゆっぐりっ、ゆっぐりいぃいい!!」 「ゆぴょぉっ……ゆぷぇ……」 身体を真っ二つに裂かれ、生クリームを盛大に噴出した赤ぱちゅりーにぺーろぺーろと舌を嘗め回す親まりさ、 親まりさ自身も穴の開いたこめかみの辺りから餡子が垂れている。 「お、おぎゃぁああじゃんっ!!うごいでよぉおお!!いっじょにゆっぐりじようよぉおおお!!」 子を庇って無数の大穴を開けた親れいむに反発性のないすーりすーりを繰り返している子まりさなど ほとんどのゆっくりがしんぐるまざーのれいむの爆発の煽りを受けて致命傷となる怪我をしている。 放って置けば助からない、だがどうすることもできない、長ぱちゅりーは振り返り爆心地を見ると ありすとその子供たちの骸としんぐるまざーのれいむの一部であったあんよが残されている。 「むきゅー……みんな、みん……な、いきて……る、ゆっく……り、は……あつ……ま……」 とにかく生きている者だけを集めて二次事故を防ぐ為に長ぱちゅりーは動き出そうとするが、ぺたんっとその場で転がる。 ぱちゅりー種であるが故、病弱な身体の疲労は限界に達していた。 長ぱちゅりーは避難を叫ぼうとしたところで意識が途絶えてしまった――。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 依頼主の老人が提供してくれた古屋、仮設のモニタールームとして機材を詰め込んだ一室で 加工所の職員が唸り声を上げて、小さな画面に食い入っていた。 「この結果じゃ商品化は難しいな……」 モニターには昨夜の出来事が克明に写されていた。 ゆっくり爆弾を食べたゆっくりはもれなく全滅したが、残ったゆっくりもそれなりの数に昇っていた、 群れ全体の3割の生存を監視カメラが捉えた映像を見て確認できた。 それなりの成果はあげた様に見えるが、企画課の職員たちは不満気に煙草を吹かしている。 「あの群れの長っぽいゆっくりぱちゅりーの指示が的確ですね」 「野生にしちゃ賢すぎるな、元飼いゆっくりか?」 長ぱちゅりーを指差して若い男が囁く、ヘッドホンを片耳に充てて音声を拾っているもう片方の職員は長ぱちゅりーの言葉を聞いて興味深そうに頷いた。 「やっぱり分離と分断の指示はこいつが出してるな」 「へぇ、やるねぇ~」 「やるねぇ~、じゃないですよ。この企画通らなかったら主任の立ち位置やばいんじゃないんですか?」 しれーっと目を細めて若い職員は上司である課長を見て呆れた顔をしてみせた。 「まぁでも首は繋がるさ、このぱちゅりーさえ捕獲できればね」 「ん?どういうことです?」 「俺の見立てじゃこいつは間違いなくプラチナ級だよ、実験課のいい土産になるぞ」 プラチナという単語に一番下っ端の職員を除いて全員が息を呑んで目を見合す。 「プラチナだからってどうなるっすか?」 一人ピンとこない様子の若年の職員が尋ねると、課長はにぃっと不敵な笑みを作ってモニターの中の長ぱちゅりーを指差した。 「お前プラチナバッチ持ってるゆっくりの相場って知ってるか?」 「知らないっすけど……」 「外車が新車で購入できるくらいすんだよ、冗談抜きで半端ないぞあれは」 「マジっすか!?……自分の年収より上……なんすか……」 課長はパンッと手を叩くと、職員たちは全員注目した。 「Bプランから変更してCプランでぱちゅりー種だけ捕獲、残りは全処分でいこう、このぱちゅりーさえいれば巻き返しは出来るさ」 「了解っ!」 この後、長ぱちゅりーが築いたゆっくりプレイスは人間たちの手によって、ぱちゅりー種を除いて1匹残らず抹殺された。 加工所に送られるゆっくりの中に長ぱちゅりーの姿があったが、その眼にあるべき輝きは既に失われている。 長ぱちゅりーには塀の中で、幸せかどうかは別にしても貴重品として大切に扱われるゆん生が待っている。 筍の茂る山に再び平穏が戻ると、そこにゆっくりの姿はなかった――。 あとがき 元ネタは某ロボットアニメです、加工所の職員の苗字もそれだったりします 前後編とやや長くなりましたがここまで読んで頂き感謝です、お付き合いありがとう御座いました 今まで書いたもの: anko2166 ゆっくり虐殺お兄さんの休日 anko2155 いつか見た赤染め姉妹たちの憧憬 anko2125 ゆっくりおうちせんげんの末路 anko2103 ゆっくり熟年離婚 書いた人:おおかみねこあき
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拷問による尋問へ <解剖実験> とある基地の地下にある檻。その中でタブンネが眠っている。 その檻はとてもせまい。少なくとも、タブンネ1匹が足をのばすことさえもできない程度には。 「朝になったぞ。起きろ」 タブンネの入った檻の前に一人の人間が立ち、タブンネに起きるように命令を出す。 その声にタブンネは目を覚まし、暗い表情で「ハァ……」とため息を吐く。 目が覚めてしまった。今日も「あれ」をされるのだ。 目が覚めた早々に落ち込むタブンネだったが、タブンネの気分など人間にはどうでもいいことだ。 タブンネを無理やりに檻から引きずり出し、そのままの勢いでタブンネを床に転がす。 「ミッグゥ」 このとき、タブンネは受け身をとらない、いや、とることができない。 なぜなら、タブンネの体は眠っていた時の姿勢から動かないからだ。 身動きの取れない檻の中で長時間、同じ姿勢でいたために体の筋肉や関節が固まってしまっているのだ。 そんなタブンネの上に人間は乗ると、固まってしまった腕をつかむ。 これから何をされるのかをタブンネは知っている。毎朝、同じことをされているのだから当然だ。 これから訪れる痛みに耐えようと、タブンネは目を閉じて歯を食いしばる。 タブンネの腕をつかんでいる人間の手に力がこもる。 ミリリ……ミシッ、ミキキッ………… 固まっていたタブンネの腕が力任せに動かされていく。 体の真横で固まっていたはずの腕が、だんだんと垂直方向に持ち上がっていく。 そして、ポキッという軽い音と同時に、タブンネの腕が一気に動く。 「ギャァァァァァァァァァァァァァ!」 その瞬間、タブンネを襲ったのは激痛だった。 毎朝同じ経験をし、よく知っているはずなのに慣れることのない痛み。 痛みを紛らわせるために体を動かそうとするが、筋肉も関節も固まったままで、そんなことすらできない。 そして、痛みはそれだけでは終わらない。 まだ片腕の一部が動くようになっただけ。動かせるようになる個所は、タブンネの体にいくつも残っている。 人間にほかの部分をつかまれ、タブンネの顔に絶望の色が浮かぶ。 ポキッ。ポキッ。と軽い音が鳴るたびに、タブンネの絶叫が響き続ける。 タブンネの体の固まりをとるのに約1時間。 その間ずっと、激痛にさらされ続けたタブンネが口を開けて荒い息を吐く。 そして、その空いた口に皮をむいたオボンの実が押し込まれる。 「ムッグ!? エッエッ! ミヤァァァ!」 朝食として与えられたオボンの実。 タブンネはそれを必死に吐き出す。絶対に食べるわけにはいかないからだ。 だって、食べてしまえば体力が回復してしまうから。 「ふざけんな。こうやって毎日オボンを食えるタブンネがどれだけいると思ってんだ」 タブンネの吐き出したオボンの実を拾うと、人間が再びタブンネの口にオボンの実を押し込む。 嫌がるタブンネを押さえつけ、その口を無理やり動かして、強引にオボンの実を咀嚼させる。 口の中で細かくなるオボンの実。本能を刺激するその味に、タブンネはオボンの実を飲み込む。飲み込んでしまう。 どれだけ心で拒絶しようとも、生物の持つ食欲が、体に拒絶させることを許さない。 タブンネは涙を流す。 食べてしまった。食べてしまった。 これで今日も死ねない。「あれ」を乗り切れるだけの体力がついてしまった。 抵抗する気力を失ったタブンネは台車にのせられ、地下のさらに奥深くに連れられていく。 今日もタブンネの「解剖実験」が始まる。 「さて、今日は新しい麻酔薬の効果を確かめることにしよう」 白衣の老人がその日の実験内容を告げると、周りにいる白衣を着た人間たちがうなずいて準備を始める。 素早い動きで機材や薬品を用意し、あっという間に実験の準備を済ませてしまう。 そして、その機材の1つであるタブンネは、手術台の上で拘束されていた。 両手、両足、頭、果ては耳に至るまで、動くことのできないようにしっかりと固定されている。 「ミィ。ミィ。ミィ。ミィ」 涙を流しながらタブンネは助けてくださいと懇願する。 昨日は歯をすべて抜かれた。その前はお腹の中に熱湯を流しこまれた。その前は……。その前は……。 不幸なことに、このタブンネの特性は『さいせいりょく』だった。 どんな過激な実験であっても、ある程度まで治療されてしまえば翌朝には回復してしまう。 それなりに無理の効く実験動物として、タブンネは毎日この部屋で体をいじられている。 「今日は麻酔の実験だから、普段よりは痛くないはずですよ。……たぶんね」 白衣を着た人間の1人が優しく声をかけると、麻酔薬の入った注射器の針をタブンネの首に差す。 痛くない。そのたった一言に、タブンネの気持ちが軽くなり、安堵の息を吐く。 痛くないなら今日は楽な日かもしれない。言われてみれば、何となく体に力が入らない気がする。 やがて、麻酔が効いてきたのか、タブンネの表情がぼんやりとし始める。 それを見て、白衣の老人が周りの人間に指示を出す。 「それじゃ、いつもどおりに開腹から始めようか」 周りの人間が動きだし、タブンネの腹にメスの先を当てる。 スーッとメスが動き、タブンネの腹の薄皮を切り開く。その瞬間―― 「ミィィィィ――――――――ッ!?」 自らの腹に走った鋭い痛みに、タブンネが悲鳴を上げる。 それはいつもの、いや、痛くないはずと油断していたために、いつも以上に強い痛み。 タブンネの悲鳴を聞いた人間たちの手の動きが止まる。 「あれ? 麻酔が効いてないのか?」 「新しく開発したやつだからな。そういうこともあるだろうさ」 「でもどうする? これじゃあ、予定していた実験ができないぞ」 タブンネの声が聞こえていないかのように、目の前の状況について淡々と話す人間たち。 これまで何度も同じようなことがあった。タブンネが悲鳴を上げるなどいつものことで、すっかり慣れているのだ。 タブンネは必死にこの状況から逃げ出そうとあがく。自分を拘束しているベルトを引きちぎろうと全身に力をこめる。 しかし、タブンネの力では拘束を解くことなどできない。ガチャガチャと虚しい音を立てながら身もだえするだけだ。 「ちょっといいですか?」 声の主は、先ほどタブンネに「痛くないはず」と言った人間。 あの人間はさっき自分のことを気遣ってくれた。もしかしたら助けてもらえるかも。 一瞬だけ頭に浮かんだかすかな希望。しかし、タブンネはすぐにその希望をあきらめる。 身を以って知っているからだ。この場所に連れてこられた時点で、自分に救いの道など残されていないことを。 「麻酔薬のテストは今日のところはあきらめましょう。実際、上手くいかなかったわけですし。 かわりに、明日予定していた呼吸器官へのアプローチを行いたいんですが、どうでしょう?」 果たして、その言葉はタブンネの予想していた通りのものだった。 予定が上手くいかなかったから中止するのではなく、予定をずらして別のことを行う。 少々のことでは壊れない実験動物。そう思っているからこそ、タブンネに対して人間たちは手を抜かない。 「じゃあ、まずは邪魔な肋骨から取り除こうか。できるだけ素早く、丁寧にやろうね」 白衣の老人がそう言うと、人間たちはおのおの道具を手に取り、タブンネの肋骨をはずしにかかる。 ハンマー。ノミ。ノコギリ。ヤスリ。 普通なら、生き物に対してる使われることのない器具が、一切の慈悲なくタブンネの肋骨を壊していく。 胸骨をたたき割り、肋軟骨を削り、肋骨を折って砕く。 数人が1度に作業しているにもかかわらず、その動きはお互いの行動を邪魔することはない。 台本をなぞるように正確に。ひとつの芸術のように鮮やかに。彼らはタブンネの骨を素早く取り除いていく。 「オ゛ッ!? オ゛ッ!? オ゛オ゛オ゛ッ!? オ゛ッ、オ゛ッ!?」 文字通り骨の髄に響く痛みに、タブンネが声にならない叫びを上げる。 肋骨に衝撃が走るたびに、タブンネの体がビクビクと痙攣する。 白目を剥き、口から泡を吐きながら、タブンネの意識は徐々に遠ざかっていく。 「もう少し丁寧にしようか。貴重な実験動物だ。取り扱いは大事だよ」 タブンネが失神しようとした寸前、老人の言葉で人間たちの動きが止まる。 そして、今までよりも丁寧にじっくりと、時間をかけてタブンネの骨を壊していく。 それはタブンネにとっては地獄以外の何物でもなかった。 強烈な痛みが一瞬で襲い掛かってくるわけではなく、分割された痛みが時間をかけて何度も襲ってくる。 そのせいで意識が飛んでくれない。 重く響く痛みが、タブンネの体に長く長く苦しみを与え続ける。 「ミカカカカカカカッカカカッカカカカカッカッカカカカカカカカカ…………」 絶え間ない痛みに、タブンネの口からも同じように絶え間ない声が上がり続ける。 やがて、タブンネの肋骨がすべて取り除かれた。 外の空気にさらされた内臓から白い湯気が上がる。 「さて、呼吸は肺で行われているわけだけど、激しい運動のあとだと呼吸が上手くいかずに息切れを起こしてしまう これは戦場に置いては致命的だ。なんせ、息切れしてしまうとその分動きが鈍ってしまうわけだから。 だから、肺をなくしてしまえば、息切れすることない最強の兵士ができるかもしれない」 白衣の老人は淡々と自分の仮説を告げる。 あまりにも荒唐無稽な仮説。もちろん、老人自身も本気で考えているわけではない。 思いついたことを実行しているだけだ。 そして、非人道的なそれを人間の体で行うわけにはいかない。 人間の体とそれなりに近い構造を持ち、それなりの数が確保でき、それなりに攻撃性が低いポケモン。 そのうえ、『さいせいりょく』という特性を持つタブンネが実験動物として使われるのは必然だった。 老人の目の前でタブンネの体から肺が取り外される。 器官と気管支の向こう側で、小さな心臓がトクトクと脈を打っているのが見える。 肺を取り外され、呼吸のできなくなったタブンネの口が、酸素を求めてパクパクと動く。 「……!? ……!? ……!? ……!?」 必死に酸素を取り込もうとするタブンネだったが、その動きは徐々に弱くなっていく。 体中から力が抜けていき、充血し始めた瞳からは光が失われていく。 タブンネの体は急速に死に向かっていた。 「このままじゃ死んじゃうね。心臓マッサージをしよう」 激しく脈を打っているタブンネの心臓を、老人が素手で力強く握る。 そして、それがタブンネに対する致命的な一撃となった。 普段は小刻みに血液を送り続ける心臓。 だが、老人が力強く握ったことで、普段送り出される何倍もの量の血液がタブンネの全身をかけめぐった。 血液の作る圧力に負けた微細な血管が次々とやぶれていく。 鼻の奥から、眼球の内部から、耳から、指先から。赤い血液が次々と吹き出していく。 さらに、本来なら血液の逆流を防止するためについている弁が破壊され、タブンネの全身を血液が逆流した。 頭の中、脳に張り巡らされている血管も破れて出血し、頭蓋でふさがれている脳が急激に圧迫される。 そして―― 「ああ、死んじゃった。……もったいないことしたなぁ」 呼吸を封じられ、全身を血液が逆流し、脳に急激に圧力が加わる。 タブンネの体はそれに耐えることができなかった。 吹き出した血液によって全身を赤く染め、白目を剥いたタブンネはピクリとも動かない。 「まあいいか。そろそろ新しいタブンネが捕まってるころだろう」 老人は周りの人間にタブンネの死体を処理するように指示すると、そのまま部屋を出ていく。 ちょうど今頃、例の部屋で拷問されている新たな実験動物をゆずってもらうために。 タブンネの死体は台から降ろされ運ばれていく。 戦時下おいて、タブンネまるまる1匹分というのは貴重な栄養源になる。 戦闘を続けている兵士たちと、そのポケモンのための食糧になるのだ。 こうして、1匹のタブンネの生涯が幕を閉じた。 しかし、これは特別なことではない。多くのタブンネが同じように犠牲になってきたのだ。 今までも。そして、これからも―― <エピローグ>に続く
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